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東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)156号 決定

申請人 三浦健次

被申請人 別子鉱業株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

被申請人が昭和二十四年十二月二十八日申請人に対してなした解雇の意思表示は、その効力を停止する。

三、理  由

第一申立の趣旨

申請人は主文と同旨の決定を求め、

被申請人は、「申請人の本件仮処分申請は、これを却下する。」との決定を求めた。

第二争のない事実

(一)、訴外井華鉱業株式会社(以下「井華鉱業」と略称)は、金属鉱業部門と石炭鉱業部門とを以て構成せられた鉱業会社であつて東京その他全国に事業所を設け、七カ所の鉱山、十三カ所の炭坑を経営している。

(二)、而して右各鉱業所ごとに、鉱員組合と職員組合とがあつて、それぞれ、全国的に連合会を組織し、なお金属部門においては、更に、単一の井華鉱業株式会社金属鉱山労働組合連合会を組織しており、井華鉱業株式会社東京従業員組合は、これに属している。

(三)、申請人は、昭和二十四年四月「井華鉱業」の前身である住友鉱業株式会社に入社(一)昭和二十一年一月から、住友鉱業東京支所職員組合(後に、井華鉱業東京従業員組合)の結成に参加その副委員長(同日)委員長(同年五月)となり、(二)井華鉱業職員労働組合の結成に参加(同年五月)その副委員長となり、(同年八月)(三)鉱業職員労働組合連合会の結成に参加、その結成と同時に書記長となり、(同月)(四)更に、昭和二十二年一月から、全日本金属鉱山労働組合連合会の結成に参加して、準備委員、情報部長となり、同連合会結成と同時にその副書記長、情報部長となつた。(同年二月)

(四)、その後、昭和二十二年申請人は、肺結核発病のため欠勤し翌二十三年十月休職となつたが、翌二十四年二月病気が全治したため復職し、同年三月調査役補(経営補助者であつて、課長代理と同格)に任ぜられ同時に非組合員となつた。

(五)、しかるに、「井華鉱業」は、昭和二十四年十二月二十八日申請人に対し、「技能能率の低い者」及び「協調性に欠ける者」であるとして、同人を解雇する旨の意思表示をなした。

(六)、その後、「井華鉱業」は、会社経理応急措置法及び企業再建整備法に基き、第二会社として、被申請人会社を設立し、「井華鉱業」の金属部門(申請人はこの部門に勤務していたものである。)における一切の法律関係は、被申請人会社に承継されるにいたつた。

第三、申請人の主張

申請人は、「井華鉱業」の主張するような解雇基準に該当しない。ひつきよう、本件解雇は、

(一)  申請人が前記のように、労働組合の結成に参加し、又、その役員として、果敢な組合活動をなし、会社側と闘争してきたことを理由とするものであるから、不当労働行為たる解雇として、無効である。

(二)  申請人が、共産党員であることを理由に、不利益な取扱をしたものとして、労働基準法第三条に違反して、無効である。

よつて、右解雇の意思表示の効力を停止する仮処分命令を求める。

なお調査役補は、閑職であつて、申請人をこの職に任命したのは、申請人を非組合員としておいて、不当労働行為を形式的に合法化するための手段にほかならない。

第四、被申請人の主張

一、申請人は、次に述べるような事由により、前記解雇基準に該当する。

(一)  技能能率の低い者

(1) 申請人は、昭和二十四年三月調査役補に任ぜられた直後、「井華鉱業」鈴木次長の指示により、「米国に於ける景気の研究」という事項についての調査を命ぜられたのであるが、上司に中間的な連絡又は報告をなさず、同年六月にいたり、ようやく緒論的な報告がなされたにすぎない。而して、その後更にその調査の続行を命ぜられたのであるが、上司に対して、連絡又は報告をなす等、調査の実質的効果をあげるための積極的努力が認められない。

(2) また、申請人の執務態度は、他の同僚に比し、良好とはいえない。

(3) 申請人の組合活動に専従するまでの勤務成績が同僚に比べて特に優秀であつたということはできない。

(二)  協調性に欠ける者

(1) 調査役補として在任期間中隣席にいた鈴木次長に対し、業務遂行上の連絡は何等なしておらず、又一切の指示を仰ぐことをしなかつた。

(2) 社内における部課長会議においても発言なく、無関心の態度を示していた。

(3) 部課長の利益擁護のための自主的団体たる土曜会においても孤立した態度をとつていた。

二、なお、調査役補は、申請人の主張するように閑職ではなく、申請人をその職に任命したのは、申請人が病気快癒後で通常業務の激務に適しないこと、申請人には、調査能力があり、適材であると認めたこと、同期に入社したものが、ほとんど全部経営補助者に昇進していること等によるものであつて、申請人自身も、経営補助者に昇進することについては、異議がなかつたのである。

三、このように本件解雇は決して不当、違法なものではない。

第五、当裁判所の判断

一、「井華鉱業」が、申請人を調査役補に任命したいきさつは被申請人主張のとおりであることが一応認められる。すなわち申請人は、経営補助者となることを承諾したうえ、調査役補となつたのであるから、このこと自体をとらえて、不当労働行為となすことはできない。

二、しかし、申請人が調査役補となることについては、労働組合側から異議があり「井華鉱業」に対し、再三申請人を通常業務に復帰させること、組合活動をしたことを理由に差別待遇しないこと等を要請し、これに対し、「井華鉱業」も、これを諒承する旨囘答しており、昭和二十四年九月二十六日には、「来るべき社内機構改正の機会には・・・・本人の健康状態、勤務振、ポストの関係等を観察し、特別の支障がなければ、ルーチング、ワーク〔通常業務〕への復帰を図る」旨書面を以て囘答しているのである。

三、しかるにその後間もなく、同年十月中旬頃から、申請人等を含む経営補助者について、非能率者を解雇する旨の議が行われ、ついに、本件解雇がなされるにいたつた。

四、そこで、「井華鉱業」の主張する申請人の解雇事由について考察する。

(一)  技能、能率の低い者

申請人の業務成績は、他の同僚に比較して、特に優秀とはいえないまでも、調査役補として、その能力を欠いていたとも認められず、又その執務態度も、被申請人の主張するように、熱意と積極性を欠いていたともいえない。申請人は、鈴木次長(直接の上司である調査役)と資料の蒐集、研究の結果等について、連絡又は、報告をしていたことが認められる。

(二)  協調性に欠けるもの

申請人は部課長等、経営補助者のうちに在つて、やや孤立的態度をとつていたことは否定し難く、経営補助者が、その同僚との協調性を欠くことは、一般従業員の場合と異り、企業経営上好ましくないことには相違ない。しかしながら「井華鉱業」は、過去における申請人の性格、思想を考慮したうえ、申請人を経営補助者に任命したことでもあるし、また申請人が同僚との折合が悪く、これがため、業務の円満な遂行を阻害するということも認められないから、ことさらに、これを解雇理由として取上げるほどのものとも考えられない。

五、更に「井華鉱業」において、同年九月末頃には、申請人を解雇する意思がなかつたことは、明かであり、且つ前記九月二十六日の書面によつて、解雇の意思のなかつたことを表明したといえるのであるから、(しかも、それは、「井華鉱業」において申請人が経営補助者としての適格を観察したうえのことであるといえる。)その後申請人の解雇を決意するにいたつたことには相当著るしい理由がなければならぬはずである。

しかるに、

(イ)  本件解雇は、同年十一月行われた「井華鉱業」の経理上のつごうによる人員整理とは無関係であつて、企業合理化の要請に基き、非能率者を整理する意図のもとになされたものであるとせられている。

(ロ)  「井華鉱業」が申請人の解雇事由として挙示した事実の多くは、九月二十六日以前の事実であつて、九月二十六日以降申請人に著るしい非行のあつたことは認められない。

六、加うるに、「井華鉱業」において、申請人に対し、かつて、職務上の注意を与えたことも認められないのであるから、右に認定した事実を綜合すると、本件解雇が、正当な理由に基いて行われたと認めることは困難である。(なお、「井華鉱業」が申請人を通常業務に復帰させることを約束しておきながら、特別な事情の変更がないにもかかわらず、短期間内に前言をひるがえしたことは、エストッベルの原則に反するといえるであろう。)そうすると、結局、本件解雇は、申請人が前記のように労働組合の結成に参画し、且つ、組合運動をしたことを理由とするものであるといわざるを得ないのである。

七、もつとも、申請人は現在経営補助者(非組合員)であり、将来組合員に復帰することは考えられないから、不当労働行為の成立が阻却せられるようにも考えられるが、労働組合法第七条第一号は、ひろく、労働運動そのもの及びこれに携つたものを保護しようとする趣旨のものであるから、申請人が経営上補助者であることは、本件解雇が不当労働行為たることを妨げるものではない。

八、解雇が無効であるにもかかわらず、被解雇者として取扱われることは、給料生活者の著るしい損害であるから、申請人の従業員たる地位を保全する必要ありと認め、主文のとおり決定したしだいである。

(裁判官 柳川真佐夫 古山広 高島良一)

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